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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)223号 判決 1999年3月18日

東京都千代田区九段北1丁目9番12号

原告

社団法人日本砂利協会

代表者理事

井上孝二

福岡市博多区石城町1番9号

原告

博多海砂販売協同組合

代表者代表理事

古賀早見

原告ら訴訟代理人弁護士

中村稔

富岡英次

弁理士 小堀益

堤隆人

福岡市早良区百道浜4丁目31番10-2101号

被告

山本洋三

訴訟代理人弁護士

吉澤敬夫

羽田野節夫

安東哲

冨山敦

弁理士 戸島省四郎

主文

特許庁が平成8年審判第21661号事件について平成9年7月8日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

主文と同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、発明の名称を「コンクリート用骨材」とする特許第2056143号(平成3年2月19日特許出願、平成7年8月9日出願公告、平成8年5月23日設定登録。以下「本件特許」といい、同特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者である。

原告らは、平成8年12月19日、被告を被請求人として本件特許の無効の審判を請求し、平成8年審判第21661号事件として審理された結果、平成9年7月8日に「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を受け、同年8月11日にその謄本の送達を受けた。

2  特許請求の範囲

ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が4%以下の海砂を摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率を5~15%としたことを特徴とするコンクリート用骨材。

3  審決の理由

別添審決書の理由の写しのとおりである。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由中、<1>審決書2頁2行から7頁5行までの審決が引用している本件発明の特許請求の範囲の記載、請求人(原告ら)の主張の要旨、審決の甲第1号証(特開昭55-149164号公報、本訴の甲第3号証。以下「引用例」という。)の記載に関する認定、<2>7頁16行から9頁13行の「示されている」までの引用例の記載に関する認定、<3>9頁19行から10頁11行までの本件発明の目的に関する記載の認定、<4>10頁18行から11頁7行目の「記載されている」までの審決の甲第2号証(本訴の甲第4号証。社団法人日本建築学会昭和61年9月1日発行の「建築工事標準仕様書・同解説、JASS 5鉄筋コンクリート工事」第8版第1刷128頁ないし131頁、306頁ないし308頁)の記載に関する認定、<6>11頁12行の「また」から12頁11行の「記載されており」までの審決の甲第2号証の記載に関する認定、<7>12頁17行から13頁9行の「すぎず」までの審決の甲第3号証(本訴の甲第5号証。全国生コンクリート工業組合連合会・全国生コンクリート協同組合連合会昭和60年6月21日発行の「第3回(1985年)生コン技術大会研究発表論文集」195頁ないし200頁)の記載に関する認定、<8>13頁13行から14頁12行の「記載がある」までの審決の甲第4号証(本訴の甲第6号証。社団法人日本建築学会昭和51年2月12日発行の「コンクリートの調合設計・調合管理・品質検査指針案・同解説」111頁、115頁、117頁)の記載に関する認定、<9>14頁17行から17頁8行の「記載されている」までの審決の甲第5号証(本訴の甲第7号証。社団法人土木学会昭和61年10月発行の「昭和61年制定、コンクリート標準示方書[施工編]」第1版第1刷18頁ないし24頁)の記載に関する認定、<10>17頁13行から18頁12行の「記載されており」までの審決の甲第6号証(本訴の甲第8号証。社団法人日本建築学会昭和58年1月25日発行の「流動化コンクリート施行指針案・同解説、1983年制定」第1版第1刷44頁及び45頁)の記載に関する認定、<11>18頁18行から20頁2行の「という記載」までに審決が引用しているとおりの記載が審決の甲第7号証(本訴の甲第9号証。全国生コンクリート工業組合連合会・全国生コンクリート協同組合連合会昭和60年6月21日発行の「第3回(1985年)生コン技術大会研究発表論文集」43頁ないし48頁)に存在すること、<12>20頁16行から18行目までの記載は、いずれも認め、その余の認定は争う。

審決は、本件発明と対比すべき引用例の技術内容の認定を誤り、また、本訴の甲第4号証ないし甲第9号証の刊行物に開示された技術内容の評価を誤った結果、本件発明に進歩性があると認定判断しているものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1

審決は、本件発明の進歩性を判断するに当たって本件発明と対比すべき引用例の技術内容の認定を誤っているものである。

すなわち、引用例には、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が3.6%の原料砂(A)を3分間摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5.8%とした摩砕砂(D)が開示されているところ、本件発明の新規性や進歩性は、引用例に開示されたすべての技術と対比してされるべきものである。

ところが、審決は、引用例に上記のとおりの技術が示されているとしても、「それは、原料砂(A)と一定の適量割合で調合して、粒度を調整したⅠ級細骨材を製造するための一原料として使用されるものであって、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5.8%となるように摩砕したことにはそれ以上の意図があるわけではない。」とし、また、本件発明と引用例の特許請求の範囲に係る発明とは、「そもそも、発明の目的が明らかに違うのである」などとして引用例記載の技術と引用例の特許請求の範囲に係る発明とを混同し、本件発明と引用例の特許請求の範囲に係る発明とを比較して、本件発明の進歩性を判断している。

しかしながら、およそ、発明の新規性や進歩性を検討するに際して、引用例に何が開示されているかが問題なのであり、引用例の特許請求の範囲に係る発明がどのような技術的課題に対する解決手段であるかは問題ではないのであって、審決は、本件発明と対比すべき引用例の技術内容の認定を誤っているのである。

(2)  取消事由2

審決は、引用例記載の技術又は知見に基づいて当業者が容易に本件発明をすることができたとは認められないとして、本件発明に進歩性がある旨認定判断しているが、この認定判断は、誤っており、取り消されるべきである。

本件発明は、これを引用例記載の技術と対比すると、海砂を原料として、0.15mm以下の微細粒度の砂成分の多いコンクリート用骨材を提供することを目的としており、引用例に海砂を原料として用いることが明示的に記載されてはいないことを別にすれば、両者は、0.15mm以下の通過率の微細粒度の砂成分に富んだコンクリート骨材を製造するという目的、意図において全く変わりはない。引用例の特許請求の範囲に係る発明は、細粒の原料(約5~0m/m)の粗粒砂を単に摩砕しただけの方法を単純摩砕法と称し、これでは生産性が低いとして、細摩砕調合法と称する発明を特許請求しようとしたものであるが、本件発明は、まさに引用例に従来技術として開示されている単純摩砕法を、海砂を原料とする場合に適用したものに過ぎない。

そうすると、引用例の特許請求の範囲に係る発明も本件発明も、その目的、意図は全く同じであり、引用例の特許請求の範囲に係る発明は、その明細書に開示している従来技術の低い生産性を改善したものであるのに対して、本件発明は、従来技術の限度にとどまっているという点で違いがあるだけのことであって、引用例記載の技術を海砂を原料とする場合に適用して本件発明とすることは当業者が容易に推考することができたものである。

したがって、本件発明に進歩性があるとした審決の認定判断は、誤っており、取消しを免れない。

(3)  取消事由3

(イ) 審決は、引用例記載の技術及び本訴の甲第4号証ないし甲第9号証の刊行物に開示されている技術又は知見に基づいて当業者が容易に本件発明をすることができたとは認められないとして、本件発明に進歩性がある旨認定判断しているが、この認定判断も、誤っており、取り消されるべきである。

(ロ) すなわち、原告らは、本件発明と引用例記載の技術とを対比すると、両者の間の相違点は、原料砂が本件発明の場合は海砂であるのに対して、引用例には単に原料砂とのみ記載されていて、原料砂の特定がないという点だけであると述べた上で、コンクリート骨材としての海砂が他の河川砂、山陸砂と同等に使用されることは、本件発明の特許出願前から広く知られていたもので、引用例に記載の原料砂を海砂に特定したこと自体に格別の発明はなく、引用例記載の技術の原料砂を海砂に適用する程度のことは当業者が容易に想到できることであるとして、本訴の甲第4号証ないし甲第6号証を提出し、また、本件明細書に「従来、0.15mm以下の粒度の砂成分はコンクリート骨材の成分としては寄与しない砂成分であるとされ」「従来不要物とされてきた0.15mm以下の粒度の砂成分の存在がコンクリートの強度(コンクリート量の低減化)、スランプ、ブリージングに良好な結果を与えることの知見に達した」と記載されているが、この「知見」は本件発明の新たな知見ではなく、従来からの技術常識であることを指摘し、その立証として本訴の甲第7号証ないし甲第9号証を提出した。

海砂が、河川砂、山陸砂と同様にコンクリート用骨材として使用されていたかどうかの点については、審決も「挙証するまでもなく周知のこと」であると認めており、本訴の甲第4号証ないし甲第6号証によっても、争う余地のない明白な事実である。そして、本件発明の特許出願の当時の技術常識に照らして引用例をみれば、引用例の原料砂を海砂に置き換えることは、当業者が何らの困難もなく、むしろ。当然のこととして実施できることである。

(ハ) 被告は、引用例の特許請求の範囲に係る発明や単純摩砕法においても、少なくとも本件発明の特許出願前の技術においては、細か過ぎる細骨材の多量の混入は避けるべきものとされてきたのであり、コンクリート用骨材中に0.15mm以下の微粒粒子を、本件発明のように多量に混入するとは考えられていなかった旨主張するが、本訴の甲第7号証によれば、材料によって粒度範囲に違いはありうるとしても、特別の材料を別にすれば、0.15mmふるいを通過する微粒分の2~10%存在させることは、コンクリートの品質、ワーカビリティ、ブリージング等の種々の観点から規定されていた標準の規格なのであり、また、その他本訴の甲第6号証、甲第8号証、甲第9号証によれば、0.15mm以下の粒度の砂をコンクリート細骨材の材料として10.0%程度まで使用することは当業者にとってきわめて常識的なものであったことが理解でき、更に、本訴の甲第4号証によれば、海砂を用いる場合の微粒分の必要性については、当業者間の常識となっていたことが理解できるのであって、コンクリート用骨材において、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率の微粒分を相当量存在させることは、本件発明の特許出願の当時、当然の技術常識であったものである。

よって、被告の上記主張は、理由がない。

(ニ) したがって、引用例記載の技術及び本訴の甲第4号証ないし甲第9号証の刊行物に開示されている技術又は知見に基づいて当業者が容易に本件発明をすることができたとは認められないとする審決の認定判断は、誤っており、取消しを免れない。

第3  請求の原因に対する被告の認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、4は争う。審決の認定判断は、いずれも正当であって、取り消すべき理由はない。

2  被告の主張

(1)  取消事由1について

(イ) 引用例に示されている、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が3.6%の原料砂(A)を3分間摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5.8%とした摩砕砂(D)は、従来技術として記載されているものではない。

すなわち、引用例の表には、原告の指摘する「ふるい目寸法0.15mm以下の通過率5.8%」に相当する人工砂(D)が示されているが、細か過ぎるものを含むものとして、そのままでは使用できるものではなく、単なる中間生成物にすぎないのであり、このように、使用可能と考えられていない技術は、たとえ、それが明細書に記述されているとしても従来技術ではあり得ない。

審決も、人工砂(D)について、「粒度を調整したⅠ級細骨材を製造するための一原料として使用されるものであって、ふるい目寸法0・15mm以下の通過率5.8%となるように摩砕したことにはそれ以上の意図がある訳ではない」として、人工砂(D)が従来技術であるとする原告の主張を否定しているのである。

(ロ) 原告らは、発明の新規性や進歩性を検討するに際して、引用例に何が開示されているかが問題なのであり、引用例の特許請求の範囲に係る発明がどのような技術的課題に対する解決手段であるかは問題ではないと主張するが、従来技術との比較において発明の進歩性、新規性の判断に当たり、その技術的課題を考慮するのは、きわめて当然のことであり、両者の解決課題を考慮し、両者の技術的思想の差異を考慮することは必須であって、そうでなければ、発明の進歩性、新規性を判断することはできないのである。

(ハ) 原告らは、審判手続において、引用例の表に記載の技術が引用例記載の技術である点及び本件発明と対比すべきは引用例記載の従来技術である点について何ら主張せず、かえって、引用例の特許請求の範囲に係る発明と本件発明との対比を主張していたのであり、審決は、そのような原告の主張に沿って正しく引用例との対比を行っているのであって、審決に違法性はない。

(2)  取消事由2について

(イ) 原告らは、引用例記載の技術を海砂を原料とする場合に適用して本件発明とすることは当業者が容易に推考することができたものであるのに、本件発明に進歩性があるとした審決の認定判断は誤っている旨主張するが、審決は、原告がその主張の柱とする引用例に記載された技術と本件発明とでは、発明の目的が違う(技術的思想が異なる)ことを明瞭に認定しているのであるから、本件発明に進歩性があるとした審決の認定判断は、正当である。

(ロ) 引用例の特許請求の範囲に係る発明の技術的思想も、引用例において従来技術とされた単純摩砕法における技術的課題も、本件発明とは全く異なるものである。引用例の特許請求の範囲に係る発明やそれ以前の単純摩砕法においても、少なくとも本件発明の特許出願前の技術においては、細か過ぎる細骨材の多量の混入は避けるべきものとされており、引用例もそのような技術的思想に基づいている。引用例においては、0.15mmふるい目通過分が5%を超える表Dの砂が一端製造されるが、細か過ぎるとされ、最終的には別の砂を混合しており、発明の対象として得られる砂は、0.15mmふるい目通過分が5%に満たないものであって、本件発明のような細かい砂を5%以上もの量を含んだものとはされていないことから、この事実は明白である。

(3)  取消事由3について

(イ) 原告らは、本件発明の特許出願の当時の技術常識に照らして引用例をみれば、引用例の原料砂を海砂におきかえることは当業者が何らの困難もなく、むしろ、当然のこととして実施できるとし、本件発明に進歩性があるとした審決の認定判断は誤っている旨主張するが、審決は、原告がその主張の柱とする引用例に記載された技術と本件発明とでは、発明の目的が違う(技術的思想が異なる)ことを明瞭に認定しているから、そのような証拠と他の証拠をいくら組み合わせても、本件発明の進歩性を否定することにはならない道理であり、審決の認定は当然といえる。

(ロ) 前記(2)(ロ)のとおり、本件発明は、引用例の特許請求の範囲に係る発明の技術的思想とも、引用例において従来技術とされた単純摩砕法における技術課題とも全く異なっているものであって、引用例の特許請求の範囲に係る発明や単純摩砕法においても、少なくとも本件発明の特許出願前の技術においては、細か過ぎる細骨材の多量の混入は避けるべきものとされてきたのである。

本訴の甲第4号証ないし甲第9号証においても、コンクリート用骨材中に0.15mm以下の微粒粒子を、本件発明のように多量に混入するとは考えられていたものではない。コンクリート用骨材中の微粒分については、その量が多い方がワーカビリティを良くすることは、知られていたが、他方で、微粒分が多いことは、必要な水の量(単位水量)を増加し、乾燥後の収縮率や強度に影響を与えるので望ましくないという相反する欠点があることも知られていた。したがって、公知技術において、微粒分を一定量含ませることの必要性は、骨材の形状が角ばっているなど、特にワーカビリティを向上させる必要がある場合について論じられていたに過ぎなかったのである。

このように、本件発明は、単純に海砂の微粒分を増加させたというものではなく、海砂自体を更に摩砕することによって、0.15mm以下の微粒分を5~15%もの量を加えて、しかも、必要水量をかえって減少させ、強度の高いコンクリートを得ることを可能にしたものであって、引用例を含む公知技術とは発想を全く異にするものであるから、そのような従来技術によって容易に推考できるものではない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3は、当事者間に争いがない。

第2  甲第2号証によれば、本件明細書には、次のとおりの記載があることが認められる。

1  産業上の利用分野

「本発明は、セメントと混合して使用するコンクリート用骨材に関する。」(1頁1欄8行及び9行)

2  従来の技術

「コンクリート用骨材として使用する砂に関しては従来は、海砂を水洗してそのまま使用していた。しかしながら、このような砂は粒度が良くないため、実際にセメント、水等と混合して使用するとき、流動性や軟らかさ等のいわゆるワーカビリティが良好ではなかった。また、場合によっては硬化後のコンクリートの強度が不十分なものになるおそれもあった。従来、0.15mm以下の粒度の砂成分はコンクリート骨材の成分としては寄与しない砂成分とされJIS規格も0.15mm以下の粒度については詳しく言及されていないものであった。本発明者は、研究の結果従来不要物とされてきた0.15mm以下の粒度の砂成分の存在がコンクリートの強度(コンクリート量の低球化)、スランプ、ブリージングに良好な結果を与えることの知見に達した。」(1頁1欄11行ないし2欄10行)、「これらの天然の川砂・海砂は水洗してゴミ及び有機物の細片分解物を洗って、排除して使用している。その水洗工程で、0.15mm以下の粒度の砂成会も流出して0.15mm以下の砂成分が失なわれ、0.15mm以下の微細な粒度の砂成分がほとんどない状態でコンクリート用骨材として使用されている。」(2頁3欄1行ないし6行)

3  発明が解決しようとする課題

「本発明が解決しようとする課題は、コンクリート打設時のワーカビリティが良好で、施工性に優れ、硬化後のコンクリート強度及び耐久性を向上することも可能で、しかも、天然の海砂を原料としながらゴミ・有機物の混在のない0.15mm以下の微細粒度の砂成分の多いスランプ、ブリージングに優れたコンクリート用骨材を提供することにある。」(同欄8行ないし14行)

4  構成

本件発明は、上記目的を達成するために、特許請求の範囲に記載の構成を採用しているものである。(同欄16行ないし20行)

5  作用

「細粒の砂は表面積が大きく水を吸収しやすいので、セメントや水を多く使用することになり実用的でないと思われてきた。しかしながら細粒の砂は、海砂の実績率を高くすることになり、結果として水とセメントの使用量を減少させることができ、且つワーカビリティの良好なコンクリートを得ることができる。また、硬化後のコンクリート強度も高いものとなり、耐久性も増すことになる。」(同欄26行ないし33行)

6  効果

「本発明により、コンクリート打設時のワーカビリティが良好で、施工性に優れ、硬化後のコンクリート強度及び耐久性を向上することも可能で、コンクリート用骨材を提供することができる。」(同頁4欄29行ないし32行)

第3  審決を取り消すべき事由について検討する。

1  取消事由1について

(1)  引用例に、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が3.6%の原料砂(A)を3分間摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5.8%とした摩砕砂(D)が示されていることは、当事者間に争いがない。

(2)  甲第3号証によれば、引用例には、次のとおりの記載があることが認められる。

(イ) 「規格粒度範囲外の粗粒砂を原料として、ロッドミル等の製砂機によって、微細粒子に富んだ微細な人工砂を製造して、ロッドミル等の磨砕度の大小に対応して、微細人工砂の量を10乃至40%の割合で、粗粒砂の量を90乃至60%で調合してⅠ級細骨材を製造する方法。」(特許請求の範囲)

(ロ) 「コンクリート用細骨材は、土木学会規定等によって、Ⅰ級、Ⅱ級、Ⅲ級と分れていて、各々の粒度範囲が厳密に規定されている。

従来からロッドミル等の製砂機(以下単にロッドミルと称する)によって、Ⅲ級細骨材や、Ⅱ級細骨材は比較的に容易に製造され得るが、Ⅰ級細骨材は最も粒度範囲が厳密に規定されて居って、Ⅰ級細骨材の製造法は比較的に容易ではなかった。

近来Ⅰ級細骨材に対する需要が増大している。

本発明の方法は、規格外の前記Ⅲ級やⅡ級の比較的粗粒の砂を原料として、Ⅰ級細骨材に合格する微粒砂に富んだ、優良な粒度範囲の砂を能率良く、大量に生産する方法を提供する。

従来から比較的粗大な原料(例えば20-0M/Mや10-5M/M等)を単純に一定時間磨砕して規格内の細骨材となす事は知られている。

亦比較的細粒な原料(例えば7-2.5M/Mや5-2.5M/M等)を単純に一定時間磨砕して規格内の細骨材になす事は知られている。此の場合には原料サイズが比較的に小さいので、比較的に能率も良い事も当然である。

本発明の方法は、更に細粒の原料(約5-0M/M)の粗粒砂でⅢ級乃至Ⅱ級品には該当するがⅠ級細骨材とはならない粗粒砂を単純に一定時間摩砕してⅠ級砂に仕上げる従来の方法(以下単に単純磨砕法と称する)とは異った能率的なⅠ級砂の製造法を提供する。

本発明の方法は、前記Ⅲ級又はⅡ級の粗粒砂を原料として、微細に細磨砕して、若干細か過ぎる程の微細砂に富んだ微細人工砂を一端製造しておいて、此の微細人工砂を再度上記の原料の粗粒砂と一定の適量割合で調合して、粒度を調整したⅠ級細骨材を製造する(以下細磨砕調合法と称する)。

細磨砕調合法に依ると、従来の単純磨砕法に比して、・・・同一の大さのロッドミルを使用して、且つ原料粗粒砂は同じであって、・・・極めて高能率的に大量にⅠ級細骨材を製造する事が出来た。

以下本発明の方法を具体例に就いて説明すると表に示す通り。

原料は5-0M/MのⅡ級品を使用して、製砂テスト用ロッドミルを使用して磨砕した。」(1頁1欄下から7行ないし2頁3欄19行)

(ハ) 「単純磨砕法によって1分間磨砕した人工砂は生産量(φ6’×12’ロッドミルに換算した理論生産量、以下同じ)は150t/Hであるが粒度構成が不良であって、漸くⅢ級細骨材に該当する程度であって、問題にならなかった。

単純磨砕法によって2分間磨砕した人工砂は、粒度は比較的に微細で、生産量は75t/H程度であった。

単純磨砕法によって3分間磨砕した人工砂は粒度は最も微細で、Ⅰ級細骨材に立派に合格するが生産量が50t/Hと比較的に少い。」(2頁5欄1行ないし13行)

(ニ) 2頁4欄の表には、原料(A)、磨砕時間1分のもの(B)、磨砕時間2分のもの(C)、磨砕時間3分のもの(D)、調製砂(A=60%、C=40%)及び調製砂(A=70%、D=30%)の粒度分布や生産量等が示されている。

上記の表は、その記載から、ふるい目寸法を0.15mmとした場合の原料(A)のふるい通過分は、3.6%(100%-96.4%)、同じふるい目寸法で磨砕時間3分のもの(D)のふるい通過分は、5.8%(100%-94.2%)であることが示されている。

(3)  上記認定の事実によれば、引用例には、規格粒度範囲外の粗粒砂を磨砕することにより微細粒子に富んだ微細な人工砂を製造して、磨砕度の大小に対応して、微細人工砂の量を10ないし40%の割合で、粗粒砂の量を90ないし60%で調合してⅠ級細骨材を製造する方法が記載され、該粗粒砂を磨砕した人工砂として、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が4%以下である3.6%の原料砂(A)を3分間摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5~15%の範囲内である5.8%とした磨砕砂(D)が示されていると認められる(この点については、審決の認めるところである。)。

(4)  審決は、本件発明と引用例とを対比するに当たって、<1>引用例には、原料(A)について、「原料は5-0m/mのⅡ級品を使用した」とあるだけで、その産出地等について詳しい記述はないし、また、原料の粗粒砂(Ⅱ級ないしⅢ級品)に「海砂」を用いるという記載もないから、海砂を摩砕して得るものである本件発明のコンクリート用細骨材は、引用例に示された摩砕時間3分の摩砕砂(D)と同じであるということはできない、<2>引用例に、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が3.6%の原料砂(A)を3分間摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5.8%とした摩砕砂(D)が示されているとしても、それは、原料砂(A)と一定の適量割合で調合して、粒度を調整したⅠ級細骨材を製造するための一原料として使用されるものであって、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5.8%となるように摩砕したことにはそれ以上の意図があるわけではない、<3>してみると、本件発明は引用例に記載された発明と、そもそも、発明の目的が明らかに違うのであるから、引用例に記載された発明を基本の引用発明とし、それと対比して本件発明の進歩性を否定しようとすることは合理性がないとの認定判断をしているところ、審決が、本件発明と引用例記載のそのほかの技術とを対比していないことは明らかであるので、その適否について検討する。

(5)  本件の引用例は、公開特許公報であって、特許請求の範囲に係る発明の技術内容のほかに、従来技術等そのほかの技術的事項が記載されているところ、後記認定のとおり、原告らは、本件発明は、これらの技術的事項を含む引用例記載の技術に基づき容易に発明をすることができたものである旨主張しているのであるから、この主張について認定判断すべきところ、審決は、本件発明と引用例の特許請求の範囲に係る発明とを対比しているのであって、その認定判断の対象を誤ったものというほかはない。そこで、原告らの主張について検討するに、本件においては、前記(1)のとおり、引用例には、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が3.6%の原料砂(A)を3分間摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5.8%とした摩砕砂(D)が開示されているのである。

(6)  被告は、引用例の表には、原告の指摘する「ふるい目寸法0.15mm以下の通過率5.8%」に相当する人工砂(D)が示されているが、細か過ぎるものを含むものとして、そのままでは使用できるものではなく、単なる中間生成物に過ぎないのであり、このように、使用可能と考えられていない技術は、たとえ、それが明細書に記述されているとしても従来技術ではあり得ない旨主張する。

しかしながら、前記(2)認定の事実によれば、引用例の発明の詳細な説明及び表には、上記技術が記載されているのであって、それが引用例の特許請求の範囲に係る発明ではなく、また、単なる中間生成物に過ぎないものであっても、そのような技術内容が記載されていることが否定されるものではない。

また、前記(2)認定のとおり、引用例には、「本発明の方法は、更に細粒の原料(約5-0M/M)の粗粒砂でⅢ級乃至Ⅱ級品には該当するがⅠ級細骨材とはならない粗粒砂を単純に一定時間摩砕してⅠ級砂に仕上げる従来の方法(以下単に単純磨砕法と称する)とは異った能率的なⅠ級砂の製造法を提供する。本発明の方法は、前記Ⅲ級又はⅡ級の粗粒砂を原料として、微細に細磨砕して、若干細か過ぎる程の微細砂に富んだ微細人工砂を一端製造しておいて、此の微細人工砂を再度上記の原料の粗粒砂と一定の適量割合て調合して、粒度を調整したⅠ級細骨材を製造する(以下細磨砕調合法と称する)。」、「単純磨砕法によって3分間磨砕した人工砂は粒度は最も微細で、Ⅰ級細骨材に立派に合格するが生産量が50t/Hと比較的に少い。」との記載があり、更に、甲第3号証によれば、引用例には、「細磨砕調合法によって3分間磨砕した微細人工砂を30%と原料の粗粒砂70%とを調合して・・・を調整した調整砂はⅠ級細骨材に合格し、且つ調整砂の生産量は166t/Hとなった。」(6欄3行ないし7行)との記載もある。

以上によれば、Ⅰ級細骨材を製造する方法として、従来技術として単純磨砕法と称する方法があり、そのうちの引用例記載の技術の方法によって製造される微細人工砂は、それ自体、Ⅰ級細骨材に合格するものであるが、生産性が低いという欠点があり、そこで、引用例の特許請求の範囲に係る発明においては、細磨砕調合法と称する方法によって、引用例記載の技術の方法によって製造される微細人工砂と原料の粗粒砂とを調合、調整して新たなⅠ級細骨材とするというものである。

そうすると、引用例記載の従来技術は、それ自体、Ⅰ級細骨材に合格しうるⅠ級細骨材を製造する方法であって、引用例の特許請求の範囲に係る発明に比べ、単に、生産性が低いところに問題があったに過ぎず、被告の主張するような単なる中間生成物に過ぎないものでも、使用可能と考えられていない技術でもないのであって、被告の上記主張は、採用することができない。

また、被告は、従来技術との比較において発明の進歩性、新規性の判断に当たり、その技術的課題を考慮するのは、きわめて当然のことであり、両者の解決課題を考慮し、両者の技術的思想の差異を考慮することは必須であって、そうでなければ、発明の進歩性、新規性を判断することはできない旨主張する。

しかしながら、用途発明に当たるといった特段の事情のない限り、構成が同一であれば原則として同一の発明ということになり、相違点がある場合にはじめて、発明の進歩性の判断に当たって技術的課題等を考慮すべきものであるところ、審決は、本件発明と対比すべき引用例記載の技術を認定するに当たり、特許請求の範囲に係る発明と対比すべきものと考えて、構成のみならず、特許請求の範囲に係る発明の技術的課題や目的をも考慮に入れて、本件発明と対比しようとしたところに誤りがあるのであって、被告の上記主張は、採用することができない。

(7)  なお、被告は、原告らは、審判手続において、引用例の表に記載の技術が引用例記載の技術である点及び本件発明と対比すべきは引用例記載の従来技術である点について何ら主張せず、かえって、引用例の特許請求の範囲に係る発明と本件発明との対比を主張していたのであり、審決は、そのような原告の主張に沿って正しく引用例との対比を行っているのであって、審決に違法性はない旨主張するが、甲第11号評(審判請求書)によれば、原告らは、引用例の表に記載の技術が引用例記載の技術として開示されていることを指摘し、これと本件発明とを対比すべきことを主張していることが認められ(4頁下から9行ないし5頁4行)、したがって、被告の上記主張は、理由のないことが明らかである。

(8)  以上のとおり、本件発明と対比されるべきは、引用例の特許請求の範囲に係る発明に限られるように考えて、本件発明とそのほかの引用例記載の技術とを対比せずに、同技術が示されているとしても、それは本件発明と対比されるべき技術とはなりえず、また、そもそも発明の目的が明らかに違っているから、本件発明との対比に当たって、引用例の特許請求の範囲に係る発明を引用することはできないなどとした審決の認定判断は、相当ではない。

2  取消事由3について

(1)  上記認定判断のとおり、本件発明と対比すべきは、引用例の特許請求の範囲に係る発明に限られるものではなく、引用例記載のそのほかの技術も含まれるものであるところ、両者は、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が4%以下の砂を摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率を5~15%としたコンクリート用骨材である点で一致し、一方、引用例記載の技術においては、単に原料砂と記載されているのに対して、本件発明においては、原料砂を海砂に特定している点で相違していることが認められる。

(2)  ところで、甲第4号証ないし第9号証の刊行物に、次の記載があることは、当事者間に争いがなく、審決も認めるところである。

(イ) 甲第4号証の刊行物

「建設省建築技術審査委員会「コンクリート細骨材塩分問題専門委員会」は、細骨材に塩分が含まれる場合、塩分が0.04%以下であれば、特別の措置を講じなくてよいという見解を示した」(129頁下から12行ないし10行)、「使用材料および調合が不適切な場合は、流動化コンクリートのブリージングの増大、分離、空気量の不安定などが問題となる。流動化コンクリートのこれらの品質に及ぼす使用材料の影響については、特に細骨材の粒度分布で0.3mmまたは0.15mm以下の微粒分が不足する場合は、流動化に伴ってコンクリートの粘性が不足、分離しやすくなったり、ブリージングが異常に多くなったりすることがある。特に、微粒分の少ない海砂や湿式分級して石粉を落とした砕砂を用いる場合などには、この傾向が強くなると考えられるので、注意が必要である。」(307頁下から6行ないし1行)、「このような場合には、フライアッシュなどを加えてコンクリート中に占める0.3mm以下の粒子の量(セメントを含めて)を400~450kg/m3程度にするのがよい。」(307頁末行ないし308頁2行)との記載がある。

(ロ) 甲第5号証の刊行物

同号証の表-1には、「骨材の生産量及び生コン転換率(58年度)」が示され、細骨材としての河川砂、山陸砂、海砂、砕砂の生産量、使用量、生コン転換率がそれぞれ示されている。

(ハ) 甲第6号証の刊行物

「細骨材については、川砂・陸砂のほかに山砂・海砂が多く使われている。山砂は古代に堆積された地層内の砂を採取したもので、泥分量が非常に多く、かなり風化の進んだ粒も含まれている。海砂には、塩分のほかに貝殻や藻なども含まれており、単一粒度のものが多い。これらにかわって、最近では砕砂の開発・研究が進められている。」(111頁下から6行ないし3行)、「コンクリートをポンプ圧送する場合、骨材中の微粒分が不足するとポンパビリチーが低下し、分離や閉そくを起こしやすい。そこで・・・0.3mmふるい通過分が15%以上あるものが望ましいとしている。」(117頁下から10行ないし8行)との記載がある。

(ニ) 甲第7号証の刊行物

「砕砂あるいは高炉スラグ細骨材を単独に用いる場合には、2~15%にしてよい。」(19頁表3.4.1の注1)、「品質が良好なコンクリートを造るためには、一般に、表3.4.1の粒度の範囲にあり、かっ、粗粒率が2.3~3.1の間にある細骨材を用いることが望ましい。粗粒率がこの範囲を離れる細骨材を用いる場合には、2種以上の細骨材を混合し、粒度調整を行って使用するのがよい。また、表3.4.1に示す連続した2つのふるい間の量は45%を超えてはならない。空気量が3%以上で単位セメント量が250kg/m3以上の場合、良質の鉱物質徴粉末を用いて細粒の不足分を補う場合等には表3.4.1の0.3mmふるいおよび0.15mmふるいを通るものの重量百分率の最小値をそれぞれ5および0に減らしてよい。貧配合のコンクリートの場合や最大寸法の小さい粗骨材を用いる場合は、比較的細粒に富んだ細骨材を使用するとワーカビリチーのよいコンクリートが得られる。JIS A 5012「コンクリート用高炉スラグ細骨材」に適合する高炉スラグ細骨材は、ガラス質で粒の表面組織が滑らかであるため、天然産の細骨材より保水性が小さい。また、砕砂や破砕して製造される高炉スラグ細骨材は角ばった粒を多く含んでいる。これらの細骨材の場合には、微粒分が多い方がコンクリートのワーカビリチー、ブリージング等に良好な結果を与える。また、これに加え高炉スラグ細骨材の場合には、粒の小さいものほど比重が大きくなる傾向にあるため、粒度分布の容積比率を一般の場合と同等にしても、細粒部分の重量百分率が大きくなるのである。これらを考慮して、砕砂あるいは高炉スラグ細骨材を単独に用いる場合には、0.15mmふるいを通過するものの重量百分率の上限を一般の場合より大きくしてよいことにした。」(19頁下から18行ないし3行)との記載がある。

(ホ) 甲第8号証の刊行物

「例えば、砕石の粒形が悪い場合、粒度分布で中間粒部分や細粒部分が少ない場合などでは、流動化後のワーカビリチーが悪くなり、細骨材の微粒分(0.3mm以下または0.15mm以下)が少ないと、流動化に伴ってコンクリートの粘性が不足し、分離しやすくなったり、ブリージングが異常に多くなったりすることがある。特に微粒分の少ない海砂や湿式分級して石粉を落とした砕砂を用いる場合などにはこの傾向が強くなると考えられので、注意が必要である。このような場合には、フライアッシュなどを加えてコンクリート中に占める0.3mm以下の粒子の量(セメントを含めて)を400~450kg/m3程度にするのがよい。」(45頁下から17行ないし10行)との記載がある。

(ヘ) 甲第9号証の刊行物

「今日における生コンクリートの需要は、益々増大しており、それにつれて、骨材の需要も拡大され、川砂、川砂利など天然骨材が枯渇状態になっている。その結果、砕石(玉砕石)の使用も多くなり、生コンクリートのワーカビリチーが損なわれる結果となっている。したがって、これを補う方法として、配合設計において、細骨材率、単位水量の増加等の配合変更を余儀なくされており、コンクリートの耐久性等に悪影響を及ぼす要因になっている。今回の実験は、細骨材の生産において発生する微砂を混入することによって、単位水量または、細骨材率を変化させずに、コンクリートの性状改善を行うことについて検討した。」(43頁4行ないし11行)、「今回の実験において、細骨材中の微粒分を前項に示したように、ある程度混入することにより砕石コンクリートにおけるワーカビリチーの改良を行うことができる可能性を見出した」(48頁下から7行ないし5行)との記載がある。

(3)  ところで、上記認定の事実によれば、甲第4号証の刊行物には、微粒分の少ない海砂を使用する際に、流動化に伴ってコーンクリートの粘性が不足したり分離しやすくなったり、ブリージングが異常に多くなったりすることが記載されており、甲第5号証の刊行物には、細骨材として海砂が使用されていることが示されており、甲第6号証の刊行物には、細骨材原料として海砂が使用されていることが記載されているのである。そして、上記各刊行物は、社団法人日本建築学会や全国生コンクリート工業組合連合会・全国生コンクリート協同組合連合会が発行する書籍であって、いずれも当業者に広く読まれている書籍であることは、当裁判所に顕著な事実である。

以上によれば、海砂をコンクリート骨材として他の河川砂、山陸砂と同様に使用することは、本件発明の特許出願前に広く知られていたことが認められる。

(4)  前記1(6)に認定したとおり、引用例には、単純磨砕法と称するⅠ級細骨材の製造法の記載があり、引用例の特許請求の範囲に係る発明に係る細磨砕調合法と称する方法に比べて生産性が低いという欠点があるというものであって、その原料砂の中に海砂を含むか否かについては記載されていないけれども、上記(3)認定の事実によれば、引用例記載の技術における原料砂を海砂に適用することは、本件発明の特許出願の当時、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(5)  被告は、本件発明は、単純に海砂の微粒分を増加させたというものではなく、海砂自体を更に摩砕することによって、0.15mm以下の微粒分を5~15%もの量を加えて、しかも、必要水量をかえって減少させ、強度の高いコンクリートを得ることを可能にしたものであって、引用例を含む公知技術とは発想を全く異にするものであるから、そのような従来技術によって容易に推考できるものではない旨主張する。

(イ) そこで、まず、海砂を使用するコンクリート用骨材において、0.15mm以下の微粒分を相当量加えて、コンクリートの性能を向上させる技術について検討する。

前記(2)(イ)によれば、甲第4号証の刊行物には、微粒分の少ない海砂を用いた場合、細骨材の粒度分布で0.3mmまたは0.15mm以下の微粒分が不足すると、流動化に伴ってコンクリートの粘性が不足し、分離しやすぐなったり、ブリージングが異常に多くなったりする傾向が強くなるので注意を要し、このような場合には、フライアッシュなどを加えてコンクリート中に占める0.3mm以下の粒子の量(セメントを含めて)を400~450kg/m3程度にするのがよいということが記載されている。また、前記(2)(ホ)によれば、甲第8号証の刊行物には、細骨材の微粒分(0.3mm以下または0.15mm以下)が少ないと、流動化に伴ってコンクリートの粘性が不足し、分離しやすくなったり、ブリージングが異常に多くなったりすることがあり、特に微粒分の少ない海砂は微粒分を増す必要があることが記載されているものである。そして、甲第4号証及び甲第8号証の各刊行物は、社団法人日本建築学会が発行する書籍であって、いずれも当業者に広く読まれている書籍であることは、当裁判所に顕著な事実である。

以上によれば、海砂を使用するコンクリート用骨材において、0.15mm以下の微粒分を相当量加えて、コンクリートの性能を向上させる技術は、当業者の間で周知の事実であったものと認められる。

(ロ) 次に、本件発明が、必要水量を減少させ、強度の高いコンクリートを得ることを可能にするという格別の作用効果を奏するものかどうかについて検討する。

前記第2、5認定のとおり、本件明細書には、「細粒の砂は表面積が大きく水を吸収しやすいので、セメントや水を多く使用することになり実用的でないと思われてきた。しかしながら細粒の砂は、海砂の実績率を高くすることになり、結果として水とセメントの使用量を減少させることができ、且つワーカビリティの良好なコンクリートを得ることができる。また、硬化後のコンクリート強度も高いものとなり、耐久性も増すことになる。」との記載がある。

被告は、上記被告主張の作用効果を裏付ける証拠として、乙第1号証(実験報告書)を提出しているので検討するに、乙第1号証は、海砂を破砕して作った0.15mm以下の微粒分を混入した細骨材(ハイテクサンド)と海砂の欠如した微粒分を石粉で補った細骨材(一本砂)との性能比較試験に関するものであり、ふるい目0.15mmの通過率は、ハイテクサンドが11%、一本砂が7%であり、所定の調合条件に従ってコンクリートの調合を行い、性能比較試験を実施したところ、硬化後のコンクリート強度は、両者ともほぼ同等であったこと、単位水量は、ハイテクサンドの方が一本砂より10kg/m3程度少なくて済んだこと、ブリーディング量については、ハイテクサンドの方が一本砂より多く良好であったことが認められる。

上記認定の事実によれば、ハイテクサンドと一本砂とは、ふるい目通過率の条件設定において明らかに相違しており、しかも、結果において、ハイテクサンドが、一本砂に比べて必ずしも良好であったとはいいがたいのであって、乙第1号証をもって、本件発明に格別の作用効果があるとの裏付けとすることは困難である。

その他本件発明に格別の作用効果があると認めるに足りる証拠はない。

3  以上によれば、本件発明は、引用例記載の技術及び甲第4号証ないし甲第6号証の刊行物記載の技術に基づいて当業者が容易に推考することができたものであるにもかかわらず、審決は、本件発明と対比すべき引用例記載の技術内容を誤り、かつ、進歩性の判断を誤ったものであって、違法であるというべきところ、この違法は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

第4  よって、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由があるから、審決を取り消すこととし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年3月4日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

理由

本件特許第2056143号(以下本件発明という。)は、平成3年2月19に出願し、平成7年8月9日に出願公告され、平成8年5月23日に設定登録されたものであって、本件特許発明は、その明細書の記載からみて、特許請求の範囲第1項(請求項1)に記載されたとおりの次の事項をその要旨とするものと認める。

「ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が4%以下の海砂を摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率を5~15%としたことを特徴とするコンクリート用骨材。」

これに対し請求人は、甲第1~8号証を提出して、次のような主旨の主張をしている。

「本件特許発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1~7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」

そこで検討すると、甲第1号証(特開昭55-149164号公報)には、「規格粒度範囲外の粗粒砂を原料として、ロッドミル等の製砂機によって、微細粒子に富んだ微細な人工砂を製造して、ロッドミル等の摩砕度の大小に対応して、微細人工砂の量を10乃至40%の割合で、粗粒砂の量を90乃至60%で調合してⅠ級細骨材を製造する方法。」(特許請求の範囲)が記載されており、その第1頁左下欄第14行から第2頁左上欄末行には、「コンクリート用細骨材は、土木学会規定等によって、Ⅰ級、Ⅱ級、Ⅲ級と分かれていて、各々の粒度範囲が厳密に規定されている。

従来からロッドミル等の製砂機(以下単にロッドミルと称する)によって、Ⅲ級細骨材や、Ⅱ級細骨材は比較的に容易に製造され得るが、Ⅰ級細骨材は最も粒度範囲が厳密に規定されて居って、Ⅰ級細骨材の製造法は比較的に容易ではなかった。

近来Ⅰ級細骨材に対する需要が増大している。本発明の方法は、規格外の前記Ⅲ級やⅡ級の比較的粗粒の砂を原料として、Ⅰ級細骨材に合格する微粒砂に富んだ、優良な粒度範囲の砂を能率良く、大量に生産する方法を提供する。

従来から比較的粗大な原料(例えば20-4m/mや10-5m/m等)を単純に一定時間摩砕して規格内の細骨材となす事は知られている。

又、比較的細粒な原料(例えば9-2.5m/mや5-2.0m/m等)を単純に一定時間摩砕して規格内の細骨材になす事は知られている。此の場合には原料サイズが比較的に小さいので、比較的に能率も良い事も当然である。

本発明の方法は、更に細粒の原料(約5-0m/m)の粗粒砂でⅢ級乃至Ⅱ級品には該当するがⅠ級細骨材とはならない粗粒砂を単純に一定時間摩砕してⅠ級砂に仕上げる従来の方法(以下単に単純摩砕法と称する)とは異なった能率的なⅠ級砂の製造法を提供する。

本発明の方法は、前記Ⅲ級又はⅡ級の粗粒砂を原料として、微細に細摩砕して、若干細か過ぎる程の微細砂に富んだ微細人工砂を一端製造しておいて、此の微細人工砂を再度上記の原料の粗粒砂と一定の適量割合で調合して、粒度を調整したⅠ級細骨材を製造する。(以下細摩砕調合法と称する)。

細摩砕調合法に依ると、従来の単純摩砕法に比して、・・・同一の大きさのロッドミルを使用して、且つ原料粗粒砂は同じであって、・・・極めて高能率的に大量にⅠ級細骨材を製造する事が出来た。

以下本発明の方法を具体例に就いて説明すると表に示す通り。

原料は5-0m/mのⅡ級品を使用して、製砂テスト用ロッドミルを使用して摩砕した。」、その第2頁左下欄第1行から第13行には、「単純摩砕法によって1分間摩砕した人工砂は生産量(φ6’×12’ロッドミルに換算した理論生産量、以下同じ)は150t/Hであるが粒度構成が不良であって、漸くⅢ級細骨材に該当する程度であって、問題にならなかった。

単純摩砕法によって2分間摩砕した人工砂は、粒度は比較的に微細で、生産量は95t/H程度であった。

単純摩砕法によって3分間摩砕した人工砂は粒度は最も微細で、Ⅰ級細骨材に立派に合格するが生産量が50t/Hと比較的に少ない。」と記載されており、また、その第2頁右上欄には、「原料(A)、摩砕時間1分のもの(B)、摩砕時間2分のもの(C)、摩砕時間3分のもの(D)、調製砂(A=60%、C=40%)および調製砂(A=70%、D=30%)の粒度分布や生産量等が示されている。

そして、前記の表の原料(A)の「+0.15→96.4」および摩砕時間3分のもの(D)の「+0.15→94.2」の数値は、原料(A)の0.15mmの目の篩で篩上分が96.4%であり、摩砕時間3分のもの(D)の0.15mmの目の篩で篩上分が94.2%ということ、言い換えると、原料(A)の0.15mmの目の篩の篩通過分が100%-96.4%=3.6%であり、摩砕時間3分のもの(D)の0.15mmの目の篩の篩通過分が100%-94.2%=5.8%であることを意味すると解されるから、甲第1号証には、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が4%以下である3.6%の原料砂(A)を3分間摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5~15%の範囲内である5.8%とした摩砕砂(D)が示されていると認められる。

しかしながら、甲第1号証には、原料(A)について、「原料は5-0m/mのⅡ級品を使用した」(第2頁左上欄下から2行目を参照。)とあるだけで、その産出地等について詳しい記述はないし、また、原料の粗粒砂(Ⅱ級乃至Ⅲ級品)に「海砂」を用いるという記載もないから、海砂を摩砕して得るものである本件特許発明のコンクリート用細骨材は、甲第1号証に示された摩砕時間3分の摩砕砂(D)と同じであるということはできない。

そして、甲第1号証の第1頁右下欄第3行から第7行の「近来Ⅰ級細骨材に対する需要が増大している。本発明の方法は、規格外の前記Ⅲ級やⅡ級の比較的粗粒の砂を原料として、Ⅰ級細骨材に合格する微粒砂に富んだ、優良な粒度範囲の砂を能率良く、大量に生産する方法を提供する。」の記載や第1頁右下欄下から第3行から第2頁第15行の「本発明の方法は、更に細粒の原料(約5-0m/m)の粗粒砂でⅢ級乃至Ⅱ級品には該当するがⅠ級細骨材とはならない粗粒砂を単純に一定時間摩砕してⅠ級砂に仕上げる従来の方法(以下単に単純摩砕法と称する)とは異なった能率的なⅠ級砂の製造法を提供する。

本発明の方法は、前記Ⅲ級又はⅡ級の粗粒砂を原料として、微細に細摩砕して、若干細か過ぎる程の微細砂に富んだ微細人工砂を一端製造しておいて、此の微細人工砂を再度上記の原料の粗粒砂と一定の適量割合で調合して、粒度を調製したⅠ級細骨材を製造する。(以下細摩砕調合法と称する)。

細摩砕調合法に依ると、従来の単純摩砕法に比して、・・・同一の大きさのロッドミルを使用して、且つ原料粗粒砂は同じであって、・・・極めて高能率的に大量にⅠ級細骨材を製造する事が出来た。」の記載から分かるように、そもそも、甲第1号証に記載された発明は、Ⅲ級乃至Ⅱ級品には該当するがⅠ級細骨材とはならない粗粒砂を単純に一定時間摩砕してⅠ級砂に仕上げる従来の方法とは異なり、前記Ⅲ級又はⅡ級の粗粒砂を原料として、微細に細摩砕して、若干細か過ぎる程の微細砂に富んだ微細人工砂を一端製造しておき、この微細人工砂を再度上記の原料の粗粒砂と一定の適量割合で調合して、粒度を調整したⅠ級細骨材を製造するものであり、甲第1号証に、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が3.6%の原料砂(A)を3分間摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5.8%とした摩砕砂(D)が示されているとしても、それは、原料砂(A)と一定の適量割合で調合して、粒度を調整したⅠ級細骨材を製造するための一原料として使用されるものであって、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が5.8%となるように摩砕したことにはそれ以上の意図があるわけではない。

一方、本件特許発明において、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率が4%以下の海砂を摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率を5~15%とする目的は、水洗工程で0.15mm以下の粒度の砂成分が流失してしまい、0.15mm以下の微細な粒度の砂成分がほとんどない状態でコンクリート用骨材として使用される結果、コンクリート打設時のワーカビリテイが良好でなかったところの海砂を摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率を5~15%とし、コンクリート打設時のワーカビリテイ等を改善するためであることは、本件特許明細書の【0002】欄や【0003】の記載から明らかである。

してみると、本件特許発明は甲第1号証に記載された発明と、そもそも、発明の目的が明らかに違うのであるから、甲第1号証に記載された発明を基本の引用発明とし、それと対比して本件特許発明の進歩性を否定しようとすることは合理性がない。

そして、甲第2号証(社団法人日本建築学会編集著作、「建築工事標準仕様書・同解説5、鉄筋コンクリート工事」、丸善(株)、昭和61年9月1日第8版第1刷発行、P.128-131、306-308)には、「建設省建築技術審査委員会「コンクリート細骨材塩分問題専門委員会」は、細骨材に塩分が含まれる場合、塩分が0.04%以下であれば、特別の措置を講じなくてよいという見解を示した」(第129頁下から12~10行)と記載されているが、それは、塩分は0.04%以下であれば問題がないということを意味しているにすぎず、請求人の主張する「海砂の場合、他の砂並みの処理を行うことができる」(審判請求書第5頁第13~15行)ということを意味するものでないし、また、その16節の流動化コンクリートの16.2の材料の項で「使用材料および調合が不適切な場合は、流動化コンクリートのブリージングの増大、分離、空気量の不安定などが問題となる。流動化コンクリートのこれらの品質に及ぼす使用材料の影響については、特に細骨材の粒度分布で0.3mmまたは0.15mm以下の微粒分が不足する場合は、流動化に伴ってコンクリートの粘性が不足、分離しやすくなったり、ブリージングが異常に多くなったりすることがある。特に、微粒分の少ない海砂や湿式分級して石粉を落とした砕砂を用いる場合などには、この傾向が強くなると考えられるので、注意が必要である。」(第307頁下から6~1行)と記載されているが、それに続けて、「このような場合には、フライアッシュなどを加えてコンクリート中に占める0.3mm以下の粒子の量(セメントを含めて)を400~450kg/m3程度にするのがよい。」(第307頁末行から第308頁第2行)と記載しており、甲第2号証は、微粒分の少ない海砂を使用する際に、流動化に伴ってコンクリートの粘性が不足したり分離しやすくなったり、ブリージングが異常に多くなったりするのを防ぐために、海砂を摩砕して微粒分を増すことは示唆していない。

また、甲第3号証(「第3回(1985年)生コン技術大会研究発表論文集」、全国生コンクリート工業組合連合会および全国生コンクリート協同組合連合会、昭和60年6月21日発行、P.195-200)には、その表一1に「骨材の生産量及び生コン転換率(58年度)」が示され、細骨材としての河川砂、山陸砂、海砂、砕砂の生産量、使用量、生コン転換率がそれぞれ示されているから、請求人の主張するように、この表から、「海砂は河川砂、山陸砂、砕砂と同様に生コンに使用されている」ことは分かるものの、このようなことは敢えて挙証するまでもなく周知のことにすぎず、また、そうであるからといって、甲第1号証に記載された発明において使用された原料砂が海砂であるとする理由にはならないから、請求人の前記の主張は意味がない。

さらに、甲第4号証(社団法人日本建築学会編集著作、「コンクリートの調合設計・調合管理・品質検査指針案・同解説」、丸善(株)、昭和51年2月12日第1版第1刷発行、P.111、115、117)には、5.3.2の「骨材の選定」の項に、「細骨材については、川砂・陸砂のほかに山砂・海砂が多く使われている。山砂は古代に堆積された地層内の砂を採取したもので、泥分量が非常に多く、かなり風化の進んだ粒も含まれている。海砂には、塩分のほかに貝殻や藻なども含まれており、単一粒度のものが多い。これらにかわって、最近では砕砂の開発・研究が進められている。」(第111頁下から第6~3行)という記載や、「コンクリートをポンプ圧送する場合、骨材中の微粒分が不足するとポンパビリチーが紙下し、分離や閉そくを起こしやすい。そこで「コンクリートポンプ工法施行指針案」においても、0.3mmふるい通過分が15%以上あるものが望ましいとしている。」(第117頁下から10~8行)という記載があるものの、それらは、細骨材原料事情やコンクリートをポンプ圧送する際の留意事項について概略述べているに過ぎないから、本件特許発明の進歩性を否定する根拠となるものではない。

さらに、甲第5号証(土木学会コンクリート委員会編集、「昭和61年制定、コンクリート標準示方書[施工編]」、社団法人土木学会、昭和61年10月第1版第1刷発行、P.18-24)には、表3.4.1に「細骨材の粒度の標準」が宗されており、注1)として、「砕砂あるいは高炉スラグ細骨材を単独に用いる場合には、0.15mmふるい通過分を2~15重量%にしてよい。」旨や【解説】の項に「品質が良好なコンクリートを造るためには、一般に、表3.4.1の粒度の範囲にあり、かつ、粗粒率が2.3~3.1の間にある細骨材を用いることが望ましい。粗粒率がこの範囲を離れる細骨材を用いる場合には、2種以上の細骨材を混合し、粒度調整を行って使用するのがよい。また、表3.4.1に示す連続した2つのふるい間の量は45%を超えてはならない。空気量が3%以上で単位セメント量が250kg/m3以上の場合、良質の鉱物質微粉末を用いて細粒の不足分を補う場合等には表3.4.1の0.3mmふるいおよび0.15mmふるいを通るものの重量百分率の最小値をそれぞれ5および0に減らしてよい。貧配合のコンクリートの場合や最大寸法の小さい粗骨材を用いる場合は、比較的細粒に富んだ細骨材を使用するとワーカビリチーのよいコンクリートが得られる。

JISA5012「コンクリート用高炉スラグ細骨材」に適合する高炉スラグ細骨材は、ガラス質で粒の表面組織が滑らかであるため、天然産の細骨材より保水性が小さい。また、砕砂や破砕して製造される高炉スラグ細骨材は角ばった粒を多く含んでいる。これらの細骨材の場合には、微粒分が多い方がコンクリートのワーカビリチー、ブリージング等に良好な結果を与える。また、これに加え高炉スラグ細骨材の場合には、粒の小さいものほど比重が大きくなる傾向にあるため、粒度分布の容積比率を一般の場合と同様にしても、細粒部分の重量百分率が大きくなるのである。これらを考慮して、砕砂あるいは高炉スラグ細骨材を単独に用いる場合には、0.15mmふるいを通過するものの重量百分率の上限を一般の場合より大きくしてよいことにした。」と記載されているが、結局、「細骨材の粒度の標準」や「粗粒率が2.3~3.1の範囲を離れる細骨材を用いる場合は、2種以上の細骨材を混合し、粒度調整を行って使用するとよい」ことや「貧配合のコンクリートの場合や最大寸法の小さい粗骨材を用いる場合は、比較的細粒に富んだ細骨材を使用するとワーカビリチーのよいコンクリートが得られる」ことや「砕砂あるいは高炉スラグ細骨材を単独に用いる場合には、0.15mmふるいを通過するものの重量百分率の上陽を一般の場合より大きくしてよい」こと等が記載されているにすぎず、これらの記載は、海砂を摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率を5~15%とするところの本件特許発明の進歩性を否定する根拠となるものではない。

そして、甲第6号証(社団法人日本建築学会編集著作、「流動化コンクリート施工指計案・同解説」、丸善(株)、昭和58年1月25日第1版第1刷発行、p.44-45)には、骨材に関して、「例えば、砕右の粒形が悪い場合、粒度分布で中間粒部分や細粒部分が少ない場合などでは、流動化後のワーカビリチーが悪くなったり、細骨材の微粒分(0.3mm以下または0.15mm以下)が少ないと、流動化に伴ってコンクリートの粘性が不足し、分離しやすくなったり、ブリージングが異常に多くなったりすることがある。特に微粒分の少ない海砂や湿式分級して石粉を落とした砕砂を用いる場合などにはこの傾向が強くなると考えられので、注意が必要である。」(第45頁下から17~12行)と記載されているものの、続けて、「このような場合には、フライアッシュなどを加えてコンクリート中に占める0.3mm以下の粒子の量(セメントを含めて)を400~450Kg/m3程度にするのがよい。」(第45頁下から12~10行)と記載されており、甲第6号証は、微粒分の少ない海砂を使用する際に、流動化に伴ってコンクリートの粘性の不足したり分離しやすくなったり、ブリージングが異常に多くなったりするのを防ぐために、海砂を摩砕して微粒分を増すことは示唆していない。

さらに、甲第7号証(「第3回(1985年)生コン技術大会研究発表論文集」、全国生コンクリート工業組合連合会および全国生コンクリート協同組合連合会、昭和60年6月21日発行、p.43-48)には、「細骨材中の微粒分がコンクリートの性状に及ぼす影響」と題した論文が掲載されているが、その「実験の目的」の項に「今日における生コンクリートの需要は、益々増大しており、それにつれて、骨材の需要も拡大され、川砂、川砂利など天然骨材が枯渇状態になっている。その結果、砕石(玉砕石)の使用も多くなり、生コンクリートのワーカビリチーが損なわれる結果となっている。したがって、これを補う方法として、配合設計において、細骨材率、単位水量の増加等の配合変更を余儀なくされており、コンクリートの耐久性等に悪影響を及ぼす要因になっている。今回の実験は、細骨材の生産において発生する微砂を混入することによって、単位水量または、細骨材率を変化させずに、コンクリートの性状改善を行うことにした。」という記載や「まとめ」の項の「今回の実験において、細骨材中の微粒分を前項に示したように、ある程度混入することにより砕石コンクリートにおけるワーカビリチーの改良を行うことができる可能性を見出したが、・・・」という記載〓から分かるように、その実験は、細骨材の生産において発生する微砂を混入することによって砕石コンクリートのワーカビリチーを改良することが示されているにすぎない。

したがって、甲第7号証にも、水洗工程で0.15mm以下の粒度の砂成分が流失してしまい、0.15mm以下の微細な粒度の砂成分がほとんどない状態でコンクリート用骨材として使用される結果、コンクリート打設時のワーカビリテイが良好でなかったところの海砂を摩砕して、ふるい目寸法0.15mm以下の通過率を5~15%とし、コンクリート打設時のワーカビリテイ等を改善するという本件特許発明の目的に相当する事項は示されていない。

そして、甲第8号証は、本件特許の審査過程での拒絶理由通知およびそれに対する意見書および手続補正書にすぎない。

してみると、甲第1~7号証に記載の事項を総合したところで、本件特許発明は、それらに記載された発明または知見に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

なお、請求人は、審判請求書第6頁第1行から第7頁第20行において、本件特許の審査過程で提出された平成6年8月8日付の意見書に対して縷々主張しているが、本来無効審判における請求人の主張は、提出した証拠に基づき自分の信ずる無効理由を主動的に主張すれば良いのであって、何も審査過程で提出された意見書に凭れて主張する必要はなく、かつそのような主張はかえって主張の理由自体を不明にするものであり、また、請求人の提出した証拠(甲第1~7号証)については、すでに検討したしたところであるから、請求人のこのような主張については逐一審及しない。

また、請求人は、審判請求書第7頁第21行から第9頁第18行において、平成6年8月8日付手続補正書によって補正された本件特許明細書の「従来、0.15mm以下の粒度の砂成分はコンクリート骨材の成分としては寄与しない砂成分であるとされJIS規格も0.15mm以下の粒度については詳しく言及されていないものであった。本発明者は、研究の結果従来不要物とされてきた0.15mm以下の粒度の砂分の存在がコンクリートの強度(コンクリート量の低減化)、スランプ、ブリージングに良好な結果を与えることの知見に達した。」(本件特許の公告公報の第2欄第3行から第10行を参照。)に関して、この補正における「知見」は、本件特許発明における新たな知見ではなく、従来から広く知られていた事項であり、かかる事項を新たな知見として認識したこと自体に誤りがあり、かかる誤った認識に基づく公知の事項によって形成された発明は、当業者が容易になし得た発明であるとか、甲第5~7号証に記載によれば、その補正事項における「従来、0.15mm以下の砂はコンクリート骨材の成分としては寄与しない砂成分であるとされ」ということが誤りであり、このような誤った前提の下で特許査定された本件特許は、無効であるとか主張しているが、その補正事項における「従来、0.15mm以下の粒度の砂成分はコンクリート骨材の成分としては寄与しない砂成分であるとされ」という認識は正確ではないとしても、それを理由として、直ちに、本件特許発明は当業者が容易になし得た発明であるとか、本件特許は無効であるとかという結論が導かれるわけではないから、このような主張は採用できるものではない。

さらに、請求人は、審判請求書第9頁第19行から第10頁第13行において、わざわざ本件特許発明の効果について、独立した項を設けて縷々述べているが、本件特許発明の効果をその構成や目的から切り離して論じたところで、それから本件特許発明は当業者が容易になし得た発明であるとか、本件特許は無効であるとかという結論が導かれるわけではないから、このような主張については、逐一審及しない。

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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